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Heat Resistant FBG Sensor
            PROJECT

令和6年8月7日、東京大学で開催された日本保全学会第20回学術講演会において、遠隔歪計測技術の原子力工学への応用に関する発表を行いました。発表者は、日本原子力研究開発機構(JAEA)から西村昭彦、(株)石原産業から井出次男と石原信之、(株)ジェイテックから伊藤稔と浦田健勇です。


この発表の目的は、JAEAからdeltafiber.jpへ移転されたピコ秒レーザー加工によるFBGセンサ製作技術を、ジェイテックのJ-CUPID(原子力プラントの運転員訓練シミュレータ)やMSM(多機能マニピュレータシステム)への活用を通じてプラント保全技術の教育訓練内容の高度化(水撃現象の可視化、MSMへの触覚機能の付与)を行う事です。

図1はdeltafiber.jpのラボにピコ秒レーザー装置の移転が成功した記念すべき様子です。当時、コロナ禍で3人ともマスクをしています。真ん中に居るのが西村、左が井出研究員、右が石原社長です。

ピコ秒FBGセンサー加工技術移転成功記念撮影

図1 ピコ秒FBGセンサー加工技術移転成功記念撮影 2022年9月1日 deltafiber.jp研究所にて

FBG構造説明_edited

図2 光ファイバコアの顕微鏡写真

高温プラント配管ライン用ひずみゲージ

図3 歪みと温度によるピークシフト

耐熱FBG(ファイバーブラッググレーティング)センサ技術とは、光ファイバーに刻まれた微細な格子構造を利用し、温度やひずみなどを高精度に測定できるセンサです。ピコ秒レーザーによる点描加工で直接書き込むことにより、市販の紫外線干渉露光法を遥かに超える耐熱性を持たせました。

このFBGセンサは、高速炉の保全や石油化学プラント、製鉄設備など、様々な高温産業プラントの熱管理に最適のセンサであり、安全性向上に役立ちます。

図2は、光ファイバコアの顕微鏡写真です。光ファイバのコア部分にはゲルマニウムが含侵してあるため、周囲のクラッド部分よりも屈折率が僅かに高くなっています。熟練すれば、顕微鏡によりコア部分を確認することが出来ます。このコアは直径10μm 程の幅しかありません。このコア部分にピコ秒レーザーパルスを集光して、溶融加工痕を作るわけです。レーザーの繰り返しとファイバコアの移動速度が一定ならば、等間隔の溶融加工痕が一直線に並ぶことになります。これが回折格子として機能することになります。写真では縦長の加工痕になっています。レーザー光の集光により、絶縁体のガラスが金属のように変化して、電子が生成することで光のエネルギーを吸収するようになるからです。光の強度が上がると急にガラスは不透明となり、ガラスは光を吸収して急膨張します。しかしレーザーパルスが照射されている時間は極めて短いため、急膨張したガラスはその状態で凍結されることになります。

図3は、FBGセンサの反射スペクトルピークを表した図です。温度一定で歪の変化を測定できます。歪一定の状態では温度変化を測定できます。温度が高くなる、或いは歪が大きくなる、ことが起こるとFBGセンサの反射ピークは長波長側にシフトします。このシフト量は石英の物性で決まっているため、対象物にしっかりセンサが実装されていれば対象物の歪や温度を知ることが出来るのです。

j-cupid_02

図4 J-CUPID 異常事象体感訓練装置

MSM

マスタースレーブマニピュレータ(MSM)

次にFBGセンサの活用例を示します。図4はをFBGセンサを実装したジェイテック社の施設です。この装置はJ-CUPIDと呼ばれています。いわば発電所や化学工場など、総てのプラントの要素を含んだ胚芽です。プラントの赤ちゃんと考えてよいでしょう。J-CUPIDはプラントそのものではなく、プラントで働く作業員の練度向上を担う訓練装置なのです。このJ-CUPIDは、水移送系運転時の異常状態(兆候)を発生させ、正常状態と比較することにより、異常検知技術の育成に役立ちます。ウォーターハンマー、配管空気溜まり、キャビテーション、ピンホールからの微小漏えい等の体験が出来ます。

図5は、MSM(マスタースレーブマニュピレーター)と呼ばれる操作訓練装置である。管理区域内で放射性物質を取り扱う場合に使用される。写真の奥に居るのがマニュピレーターの操作手であり、手前で背を向けているのが指導韻である。操作手は手元のグリッパーを握ることで、マニュピレーター先端の2本の爪の開閉を行うことが出来る。対象物を爪で保持して持ち上げ回転させて、さまざまな作業を行うためには熟練を必要とする。操作手は視覚に頼ってマニュピレーターを操作する。もし、適切な歪センサが爪に実装されているならば、視覚に加えて触覚も使って対象物を取り扱うことが可能となる。今回のプロジェクトでは、ジェイテックのMSMにFBGセンサを実装することで触覚を付加することを試みました。

J-Cupidを使用した水撃作用の計測

信号計測

FBGセンサと歪ゲージからの信号計測

バルブ閉と圧力

圧縮空気によるタンク内貯水の押し出し 手動によるバルブ閉作業と高圧の発生

図6はJ-cupidでの歪計測実験の様子です。配管の一部に、FBGセンサを2種類とりつけました。一つは配管に密着するように、もう一つは配管に接触させるだけという取り付け方です。前者のセンサは配管の歪と温度の影響を両方計測することになります。後者は、機械的な伸縮は拾うことはありません。温度だけを検知します。こうして、前者から後者を差し引くことで温度の影響を補償して、機械的な歪だけを捉えることが出来るのです。念のため配管には、よく使われる抵抗式の歪ゲージも取り付けました。

7はJ-cupidを横から見た状態です。手前に居る操作手はバルブを手動で急に閉じます。圧縮空気により配配管の中を水が流れてタンクに流れ込みます。十分に流量が大きくなった時点でバルブを閉じることで、高圧が発生し圧力波は配管を伝わって上流に遡ってゆきます。センサを取り付けた位置に圧力波が到達すると配管が圧力で外側に膨らみます。その変形をFBGセンサが捉えるのです。

験には予想外の出来事が起こします。この時、我々はJ-cupidの電気系統が発生するノイズの事を十分に考慮しなかったのです。このことは実験を行うと、直ぐにFBGセンサと歪ゲージの出力の違いになって現れました。

FBGセンサ波形(青)と歪ゲージ波形の比較(データ処理前)

FBGセンサ波形(青)と歪ゲージ波形の比較(データ処理前)

FBGセンサ波形(上)と歪ゲージ波形(下)の比較

FBGセンサ波形(上)と歪ゲージ波形(下)の比較

FBGセンサ波形(青)と歪ゲージ波形の比較(データ処理後)

FBGセンサ波形(青)と歪ゲージ波形の比較(データ処理後)

MSMtest1

MSMへの実装テスト ①鉛ブロックの把持

MSMtest2

②鉛ブロックの持ち上げ

MSMtest3

③鉛ブロックの回転(45度)

MSMtest4

④鉛ブロックの回転(90度)

MSMによる鉛ブロックの把持・持ち上げ・回転による重力測定

MSMによる鉛ブロックの把持・持ち上げ・回転による重力測定結果

極限状態の福島第一原子力発電所

極限状態の福島第一原子力発電所

1Fの核燃料デブリの取り扱いに役立つロボットアーム

IRID・三菱重工・オクスフォードによる長尺ロボットアーム

IRID・三菱重工・オクスフォードによる長尺ロボットアーム (@JAEA楢葉遠隔技術研究開発センター)

クローラー移動型ロボットアーム

クローラー移動型ロボットアーム(by スギノマシン)

ホットラボ施設附属のマニュピレーター

ホットラボ施設附属のマニュピレーター

いずれのロボットアームも丈夫で強いですが触覚がありません。

まとめ
・FBGセンサの原子力分野利用として、ジェイテック社のJ-CUPID及びMSMに、FBGセンサの実装を行った。
・J-CUPIDにおいては、水撃作用による配管の変形を計測できた。
・MSMにおいては、マニュピレーターの操作により対象物の重量計測に成功した。
今後の展開
・高速炉安全監視、再処理プラント保全、核融合炉安全監視、1F燃料デブリハンドリング等の原子力応用を推進する。

FBGセンサによる歪計測については、共和電業の高橋様にご協力を頂きました。厚く御礼申し上げます。

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